シャーロック・ホームズの冒険 第14巻
スペシャル:バスカビル家の犬 The Hound of Baskerville
■スタッフ
監督:ピーター・ハモンド
脚本:ジェレミー・ポール
ゲスト:クリストファー・タボリ(山本圭)/ネイル・ダンカン(大和田伸也)
これは恐ろしい危険な仕事となるだろう
―君が無事にベーカー街に戻ってくることを、僕は心から祈っているよ…
■紹介
ダートムアの旧家バスカビル家には代々悪魔の犬の祟りがあるという言い伝えがあり、館の主サー・チャールズがそれを暗示するかのように謎の死を遂げる。アメリカにいる甥のサー・ヘンリーが家督を継ぐことになり、ロンドンへやってきた。バスカビル家の医師モーティマーから依頼を受けたホームズはサー・ヘンリーに会い、危険な依頼であることを察知する。ホームズは他の事件で多忙であり、代わりにワトスンがサー・ヘンリーに同行して汽車でダートムアに向かった。
ダートムアはムーアと底なし沼のある田舎で、夜は薄気味悪く恐ろしいところだが、昼間は美しい自然を楽しめる土地である。駅に到着すると、警官が大勢いるので何事かと尋ねると、ムーアに凶悪な脱獄囚が逃げ込んだらしい。バスカビル家の館には執事のバリモア夫妻がおり、近くには昆虫学者ステープルトンやその妹ベリル、訴訟マニアのフランコランドなど住人がいる。
ワトスンは謎を解くべく、行動し、ホームズに手紙を書く。果たして、悪魔の犬の存在は?サー・チャールズの本当の死因は?
■感想
DVD-BOX2(現在は1と2が一緒になった完全版が出ていますが)は、1に比べると比較的地味な作品が多いのだが、これは例外。正典中4本の長篇のうち、最も人気の高い長篇だ。おどろおどろしい悪魔の伝承から始まり、骨相学や蝶の採集やら、なんだか不気味なムード満点。グラナダ版の良いところは、本物の美しいムーアが見られるところ。やっぱりいいなぁ、怖いけど。
正典ではレストレード警部が出てくるところも全部ワトスンがやってしまっているので、ワトスン・ファンにはたまらない活躍ぶり。ホームズより出番が多いのだ。今回の出色は隠れ家に現れたワトスンをホームズが自作のシチューでもてなそうとするところ。すごくまずそう。ワトソンは正直に「見るだけで充分だ」と言い、それを受けて「熱いとまだましなんだが…」と返す、その哀しそうな顔。グラナダ版のオリジナルで、最高なんである。
しかしあのセルデンのロボトミー手術はどういったら良いか。セルデンを放置しておくことへの言い訳としてグラナダ版で入れた処理なんだが、ちょっと気持ち悪いなぁと思う。凶悪な殺人犯は精神異常の判断が下され、ロボトミー手術を受けて今はもう無害なんですって、精神異常者に対する偏見というか対応がアナログすぎやしませんかね。もうちょっと「凶悪な殺人犯でも庇う姉がいるんだ」というところを、正典のようにしぶく書けないものかな。時間がないのはわかるんですが。
サー・ヘンリーと救い出されたベリルの再会のシーンの、一瞬嬉しそうな二人、その後の複雑な顔、という演出はよかった。とりあえず、人の奥さんだったわけで、サー・ヘンリーは騙されていたわけで。あぁよかったよかったと短絡的になれないのがよくわかって、よかった。しかし、ステイプルトンが一人でサー・ヘンリーを迎えて食事しているというだけで、ベリルが虐待されているとわかる、というところもちょっと無理がある。その前のステイプルトンとベリルの喧嘩のシーンを入れて欲しかった。ローラの存在も、もう少し会話の中で出てきているのだが、やっぱりちょっと突然すぎる。それからローラがステイプルトンには妻がいる件を初めて会ったホームズとワトソンから聞かされて、何の証拠もなく信用するところも無理があった。
結局この悪魔の犬は単なるリンを塗った巨大な犬だったわけですが、人を襲うようちゃんと訓練されているところが、すごいなぁと。昆虫学者にそんなこと出来るのか?みたいなことはたくさんあるんですが、あまり言わない方が良いでしょう。