世界文学のフロンティア 3 夢のかけら
■著者:今福龍太編
■書誌事項:1997.1.10 岩波書店 ISBN4-00-026143-6
■内容
死者の百科事典―生涯のすべて(ダニロ・キシュ著,山崎佳代子訳)
海岸のテクスト(ガブリエル・ガルシア=マルケス著,旦敬介訳)
最後の涙(ステーファノ・ベンニ著,和田忠彦訳)
一分間(スタニスワフ・レム著,長谷見一雄訳)
災厄を運ぶ男(イスマイル・カダレ著,平岡敦訳)
ユートピア奇跡の市(ヴィスワヴァ・シンボルスカ著,沼野充義訳)
ゆるぎない土地(ヴォルフガング・ヒルビッヒ著,園田みどり訳)
魔法のフルート(ボフミル・フラバル著,赤塚若樹訳)
かつて描かれたことのない境地(残雪著,近藤直子訳)
コサック・ダヴレート(アナトーリイ・キム著,有賀祐子訳)
ハーン=ハーン伯爵夫人のまなざし―見えない都市(エステルハージ・ペーテル著,早稲田みか訳)
金色のひも(アブラム・テルツ著,沼野充義訳)
■感想
「夢」を扱っていると単純に考えると幻想文学のアンソロジーのように一瞬思われるが、テーマは「ポスト・ユートピア」である。「実現されたユートピア」であるロシア革命に対する反ユートピア文学は社会主義批判の作品である。そしてその後の文学は?ということになる。となると単純に旧東ドイツの作品かと思われるが、そう簡単なくくりでもない。確かにこの中の「ゆるぎない土地」は旧東独出身の作家の手によるものだし、チェコやロシアから亡命した作家の作品もあるのだが‥。
ガルシア=マルケスの「海岸のテクスト」を読みたくて買ったのだが、これは本当にほんの一部だった。なんだか不動産情報誌に載っている「吊り」の物件のようだが、他がはずれてないので文句はない。印象に残ったものだけ。
「死者の百科事典」は死んだ人のすべての行動を記録した百科事典。全員掲載されているわけではないが、対象となった人物の誕生から死までをとある委員会が影ながら見守って報告し、まとめたものだ。非常に詳細なディティールを客観的に記述したものとなっている。これを娘が読む話だが、どこかで同じようなアイディアの作品を読んだことがあるような気がするのだが思い出せない。多分ラテンアメリカ作家の短編だと思うのだが‥。ダニロ・キシュはセルビア語で書く作家というか、旧ユーゴスラビアを代表する作家。東京創元社から同名の短編集と「若き日の哀しみ」が刊行されている。
「最後の涙」はイタリアの作家。学校が舞台の作品はどうも苦手なんだな。学校が嫌いだったわけじゃないが、教師が嫌いでね。「聖女チェレステ団の悪童」は売れたようだ。
「災厄を呼ぶ男」のイスマイル・カダレはアルバニアの作家。映画「ビハインド・ザ・サン」はイスマイル・カダレの小説「砕かれた四月」を原案としたもの。この映画の監督は「モーターサイクル・ダイヤリーズ」のウォルター・サレス監督だったりする。ご縁だなぁ。この人の作品は単行本で出ている。
「ゆるぎない土地」は前述のように旧東独出身の作家の手によるもの。他の訳出されたものは
「魔法のフルート」はチェコの作家、故ボフミル・フラバルはちょっと読んでみたいと「世界×現在×文学 作家ファイル」を読んで思っていた作家だ。雑誌「すばる」のチェコ特集とこのアンソロジーにしか入っていないのが残念。単行本出ないかなぁ。こちらのホームページに作品が掲載されている。