龍時 03-04
■著者:野沢尚
■書誌事項:文藝春秋 2004.7.10 ISBN4-16-323150-1
■感想
『Number』に掲載された本格的サッカー小説・龍時シリーズ第三弾。アテネ五輪の話なので、開始前に読んでおきたかった。著者が死の直後に刊行された作品だ。グループリーグの初戦がアメリカ、次がカメルーン、第三戦が開催国であるギリシャ。このギリシャ戦からスタートし、準々決勝スペイン、準決勝韓国、決勝ブラジルと、何やかやと因縁のある国との戦いを描いている。ギリシアがユーロで優勝するなどとはまったく予定になかったんだろうなぁと思わず苦笑してしまう。それほど強いチームに想定していないことは別に間違ってはいなかったのだが、予想以上に強くなっていたということか。
U-23日本代表監督との確執というよりは駆け引きが描かれる。組織プレイを強制されることを嫌いわずか17歳でスペインへ飛び出し、1部リーグでスーパーサブとして活躍する主人公とドイツ帰りの組織プレイが得意な理論家肌の監督。どう考えても合わないと思われる組み合わせがどういう効果をもってU-23日本代表のアテネ五輪の戦いを動かすのか。
また、龍時の試合の模様と同時進行で父親の時任礼作がこの平義という監督の実像をつかむもうとする様子が物語を進めている。
この平義という監督の戦術は説得力がある。日本人のメンタリティに基づいた高い守備意識と組織プレイ、その上でのオプションとしての自由奔放な攻撃性。これは理想に近いのかもしれないな。日本人は確かにメンタリティとして失敗をおそれるところがある。一人でリスクを負った一か八かの攻撃になど出にくい。そこで組織的にプレイすることで安定した戦いができるようになる。疲れたとき、敵が焦ってきたとき、約束事に基づいた組織的なプレイをきちんとこなすことが出来れば、それは大きな武器になる。ただし、同じことばかりやっていたら敵は全部見抜いてしまう。そのため予定にないことも約束にないことも出来る選手たちが欲しい。そこで、自分の判断で動くことができる、失敗をおそれないメンタリティをもつ選手も必要だと。まーこんなうまい組み合わせが出来れば最高だわな。
しかし、平義という人物を描く上で奥さんとその妹の関係の物語は必要だったんだろうか…?という気がしてならない。人物像に厚みを出したかっただけなら、そこまで書き込まなくても、もっと試合に集中した方が個人的には嬉しかった。
01-02、02-03、03-04のどの順に面白かったかというと、…刊行順…だと思う。やっぱりねぇ(笑)。主人公があまりヒーローになっても面白くないのだわ。それでもリーガを描いた02-03はまだ良かったな。日本代表にさほど興味がないと面白くないのかも。あ、だから日本代表が好きな人は読んだ方が良いと思います。田中達也とか、そこまで良いかなぁという気もするけど。
まぁ、それはともかく、後書きを読むと1年に1冊刊行の予定で連載していたそうだ。ということは「04-05」もある筈だった。主人公の年齢がとても低いところで始まっているので、10年は続けられるが、おそらくは次のW杯がある2006年まで、つまり04-05、05-06あたりまでは少なくとも予定されていたのだろう。
龍時の続きが読めなくなってしまったのは何故だろう?誰のせいなんだろうか?言われているように「坂の上の雲」のせいなのか?じゃあ「映像化まかりならん」と言った司馬遼太郎のせいなのか?それとも企画を持ち込んだテレビ局のディレクターなのか?
いや、やっぱり野沢尚本人のせいなんだろう。悔しいな…。心から悔しい。