最近読んだ本、見た映画・芝居、聞いたCD

2002年10月

2002年10月28日

ワールドカップ・メランコリー

ワールドカップ・メランコリー■著者:サイモン・クーパー著,森田浩之訳
■書誌事項:広済堂出版 2002.4.3 ISBN4-331-50888-9
■感想
「サッカーの敵」と異なり、雑誌に掲載された記事の集合であるため、時間軸としては多少古いものになってしまうが、面白さは抜群。特に筆者が子供の頃を過ごしたオランダに関する連作が圧巻。オランダは何故ワールドカップで優勝できないのか、がよくわかる。そういや、2002年はW杯に出ることもできなかったっけな…。

2002年10月22日

サッカーの敵

サッカーの敵■著者:サイモン・クーパー著,柳下毅一郎訳
■書誌事項:白水社 2001.3.10 ISBN4-560-04960-2
■感想
昨年3月に日本で刊行されたが、原文は1994年のアメリカワールドカップ後に出た本である。著者、サイモン・クーパーは現在では世界No.1フットボール・ジャーナリストと呼ばれるライターだが、当時23歳だか24歳だかの本当に若いジャーナリストだった。1994年に刊行されたときは、さぞ衝撃的だっただろう。
世界とフットボールのかかわりを主に政治的・社会的観点から書かれている…というと、つまらなさそうに思える。それは何度も繰り返されて来たテーマであるし、プレイヤーの話や戦術の話の方が面白そうに思えるからだ。だが、これは面白い。翻訳も良いのだろうが、前のガーディアンの記者が書いたものより遙かに引き込まれる。
ヨーロッパ、アフリカ、南北アメリカ大陸(当時はアジアは抜けていても当然)と世界中を走り回り、多くの人にインタビューをし、過去のその国でのサッカーについて描かれている。臨場感もありながら、ポイントを押さえて歴史もしっかり押さえている。私はアルゼンチンサッカーについてはとりあえず、日本で仕入れることの出来る歴史については何でもござれなので、目新しい話はなかったが、その分この著書の価値がよくわかった。他の国の話もそうなのだろう。
もっと早く読めば良かった、とは特に思わない。2001年3月に読んでも2002年10月に読んでも、時間には大きく左右されるような内容ではない。サッカーの戦術、プレイヤーの話などは雑誌で刻々と最新情報を仕入れるべきであって、書籍ではもっと社会・文化・政治との密接な関わりについて読みたいと思う。
本書の中で一番面白かったのは、やはりアフリカの話だ。カメルーンの給料未払いによるストの話は日本でも今回のW杯直前に知られたが、その理由がよくわかる。政治的に不安定な国ほどサッカーに情熱をもっている、という主張は説得力がある。
2002年W杯を本当にきちんととらえた本は来年にならないと出ないだろうと思う。現在続々刊行されているのは、ルポルタージュであって、総括ではない。私には読みたいと思えるものはまだ出ていない。「あのW杯は試合内容からすると、準決勝・決勝くらいがまぁなんとかで、残るはひどい内容ばかり。史上最悪のW杯だった」と言われても当然だろうな、と思っている。

2002年10月21日

ロザリー・ゴーズ・ショッピング

ロザリー・ゴーズ・ショッピング■1990.3 94分 西独
■スタッフ
監督・製作・脚本:パーシー・アドロン Percy Adlon
製作・脚本:エレオノール・アドロン
脚本:クリストファー・ドハティ Christopher Doherty
撮影:ベルント・ハインル Bernd Heinl
出演:マリアンネ・ゼーゲブレヒト Marianne Sagebrecht/ブラッド・デイヴィス Brad Davis/ジャッジ・ラインホルド Judge Reinhold/エリカ・ブランバーガー Erika Blumberger/ジョン・ホークス John Hawkes
■感想
「バグダッドカフェ」のパーシー・アドロン監督、エレオノール・アドロン脚本、マリアンネ・ゼーゲブレヒト主演トリオが再度組んだ作品。

2002年10月15日

南米蹴球紀行―英国・ガ−ディアン紙記者が見た中南米フットボ−ルの光と影

南米蹴球紀行■著者:クリス・テイラー著,東本貢司訳
■書誌事項:勁文社 2001.3.25 ISBN4-76-693668-X
■感想
スポーツ・ジャーナリズムの世界はやはりアメリカが盛んなのだが、サッカーはアメリカで流行ってないので、メインがイギリスになってしまう。このイギリス人ジャーナリストは翻訳のせいもあるだろうが、あまり文章が上手くないのではないかと思う。
内容的には、フランスW杯の前の著作なので古くなってしまうが、南米のサッカーの専門書が少ないので、とりあえず読んで見るしかない。と、初版の刊行時から思っていたが、若干高いので、何となく手に入れないでいたら、Amazon、BK1、楽天ブックスと次々在庫なし、で結局「Famima.comにあった。
ウルグアイ、アルゼンチン、ブラジル、コロンビア、ボリヴィア、メキシコ、ニカラグアを旅してサッカーとその周辺事情を綴った力作ではある。旧スポナビに抜粋がある。うーん。興味深くはあったが、やはり目新しいことは特に書いてなかったなぁと思った。

2002年10月14日

バグダッド・カフェ

バグダッド・カフェ■1987 108分 西独
■スタッフ
監督・製作・脚本:パーシー・アドロン Percy Adlon
製作・脚本:エレオノール・アドロン
撮影:ベルント・ハインル Bernd Heinl
出演:マリアンネ・ゼーゲブレヒト Marianne Sagebrecht/ジャック・パランス Jack Palance/CCH・パウンダー CCH Pounder/クリスティーネ・カウフマン Christine Kaufman
■感想
「へんてこりん」な映画だと思う。初めてみたのはテレビだった。何気なくついていたテレビを見て、なんとなく見はまって、なんだかわくわくしながら、かつ困惑しながら見た記憶がある。1998年にDVD化され、すぐに廃盤になったらしい。中古DVD市場では若干プレミアがついている。何とか手に入れて見たが、これで3度目くらいかな。
何が「へんてこりん」かというと、まず冒頭が変。ひょっとして安っぽいのか?と思わせるほど「黄色」の画面。時折、昔ながらの実験映画のようなカットが入るし。いかにも、という感じのドイツ人夫婦が会話が聞こえないまま諍いを起こす。車は去り残された女がトランクを引きずって歩く。そして「Calling You」。
ところが実際は「ほのぼの」映画だったりする。だから非常に変だ。徐々に独米異文化交流?といった趣きのある、アットホーム映画に変貌する。マリアンネ・ゼーゲブレヒトって、ああ、ドイツ人のおばさんってこんな感じという女優。とにかく胴体だけ東洋人から見ると異常なまでに「でかい」のだ。暑苦しい砂漠で、この図体ではまったくもってうざったいのだが、ブーメランのシーンあたりから、次第に軽やかに、かわいらしく見えて来る。なんだか妙に引き込まれる映画だった。多分マイベスト5本には入るなとあらためて確認した。
女性監督と聞いて納得。パーシー・アドロンには他にも日本で公開された映画があるらしいが、DVDにはなっていない。何とかビデオで探してみたい。

2002年10月 8日

都市とモードのビデオノート

都市とモードのビデオノート■1992.3 81分 仏/独
■スタッフ
監督・脚本:ヴィム・ヴェンダース Wim Wenders
製作:ウルリッヒ・フェルスベルク Ulrich Felsberg
撮影:ロビー・ミューラー Robby Muller/ミュリエル・エーデルシュタイン/ウリ・クーディッケ/ヴィム・ヴェンダース Wim Wenders/中島正利/近森真史
出演:ヴィム・ヴェンダース/山本耀司
■感想
「東京画」に引き続き、ヴェンダースが東京を撮影したドキュメンタリー作品。残念ながらDVDになっておらず、ビデオも絶版である。でも、何とか手には入るものだ。
ファッション・デザイナー「Yoji Yamamoto」をテーマにヴェンダースが撮影した、シネ・ポエムというべき小作品。山本耀司の仕事風景を撮影しようと、ヴェンダースは35ミリの10分しかもたない手回しカメラを使用する。が、非常に音がうるさく、仕事の邪魔になると感じ、忌み嫌っていたビデオを使うことになる。
単純にビデオを使うのもしゃくだったらしく、というか、いろいろと冒険したい気持ちが伝わって来るが、


  1. 35ミリ映像(ちょっとしかないな)

  2. ビデオ映像を画面に取り入れた35ミリ映像

  3. ビデオ映像を画面に取り入れたビデオ映像

  4. ビデオ映像そのものの


といろいろな試みが行われ、どれもなかなかカッコ良く仕上がっている。
山本耀司と言えば「黒」の巨匠だ。似合う奴も似合わない奴もひたすら黒が大流行した時代があったなぁと思い出す。今でも黒は多いが、そんなね、みんながみんな似合うわけじゃないので、それほど高いパーセンテージではないが。山本耀司の自信と職人気質をうまく見せている。
これ自体はさほど悪くはないのだが、ただ、この次の作品があの「夢の涯てまでも」であることを考えると、どうなんだろうな。パリと東京の両方で撮影して、都市と都市の流れを感じてしまったのが、いかんかったのかもしれないな。

2002年10月 5日

スタジアムの神と悪魔―サッカー外伝

スタジアムの神と悪魔■著者:エドゥアルド・ガレアーノ著 飯島みどり訳
■書誌事項:みすず書房 1998.4.1 ISBN4-622-03380-1
■感想
ウルグアイの評論家による南米サッカーのエッセイ。1〜3ページの短い断片の集合体なので、かえって読むのに時間がかかってしまった。面白い篇もあるが、ちょっと哲学的でうーんという感じのものもある。流ちょうな流れのあるノンフィクションばかり読んでいると、こういうのは感じがつかめないのかもしれない、と思った。

2002年10月 2日

東京画

東京画■TOKYO-GA 1989.6 93分 西独/米
■スタッフ
監督・脚本:ヴィム・ヴェンダース Wim Wenders
製作:クリス・ジーヴァニッヒ Chris Sievernich
撮影:エド・ラッハマン Ed Lachman
音楽:ローリー・ペッチガンド/ミーシュ・マルセー/チコ・ロイ・オルテガ
出演:厚田雄春/笠智衆/ヴェルナー・ヘルツォーク Werner Herzog
■感想
これは初見だ。あまり深い意味はなく、なんとなく見てなかった。「パリ、テキサス」のクランクイン前に撮影し、公開後に編集したドキュメンタリー作品。小津安二郎監督をこよなく尊敬するヴェンダースが小津やそのスタッフと作品に捧げたオマージュ。
ヴェンダースは基本的に非常に素直で謙虚なアーティストだ。多くの映画を見て、たくさんの映画監督を尊敬している。その中でも小津はNo.1なのだが、言ってみるとちょっとミーハーなところがある。それがいいんだけど。
冒頭と最後に小津の「東京物語」の作品がそのまま使用されている。まずはヴェンダースが撮影監督と二人で東京を見てまわる。撮影されたのが1983年当時のため、タケノコ族とかロカビリー族とか、原宿あたりのすでに懐かしい風景が、昭和30年代の更に懐かしい風景と対比的に撮影されている。パチンコ屋や後楽園の巨大なゴルフ練習場をわざわざ選んでいる。「夢の涯てまでも」のときはカプセルホテルだし。あと、外人のお約束で合羽橋の食品見本製造工場を訪ねている。うーむ。浅いなぁ。東京の風景って、そんなんか?当時だって一部の人しか見ないと思うんだが、そんなの。
夜のゴールデン街はきっとあまり変わらないんだろうな。新宿御苑の花見はきれいだと思って撮っているんだろうけど、花見をしている日本人がバカみたいな気もして、ちょっと迷う。
北鎌倉の小津のお墓は有名で墓碑銘はなく「無」とだけ刻まれている。お参りする笠智衆も故人だ。そう言えば亡くなったときは、とにかくショックで絶句したな、と思い出す。この作品を観て、あらためて、小津監督と笠智衆は雰囲気が似ているなと思う。よく言われることだが、二人は年齢的に一つしか違わない。笠智衆が「すべて先生の指示に従って、自分の演技などしなかった」と語っているが、まさに彼は小津の分身だったのだな、と
撮影監督の厚田雄春のロングインタビューも良い締めくくりだった。ただ、ヴェンダースの語りはいつもは好きなのだが、今回に限っては邪魔だ。翻訳しなくても、わかるんだから、ちょっと黙ってて欲しい、というのは無理な話で、フランス向けに作られているのだから、仕方がない。
私にとって小津作品は正直退屈だ。あのリアリスティックな「間」と目線と同じ、低いアングルがいいんだっていうことは理解できるんだが、受け入れるのが難しい。日本人である私がヴェンダースの「間」は受け入れられても、小津の「間」がダメというのは同じアメリカ文化で育っているのに、世代の違いかなぁと不思議な気がした。