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2002年8月21日

パウラ、水泡なすもろき命

パウラ■著者:イサベル・アジェンデ著,管啓次郎訳
■書誌事項:国書刊行会 2002.7.25 ISBN4-336-03963-1
■感想
イサベル・アジェンデは野心的な試みのある作家、というにはほど遠いが、素直に言って、小説家としては抜群に面白い。これはエッセイなのだが、やっぱりとても面白い。元々デビュー作の「精霊の家」が自分の家系を元に祖母を主人公にした物語なのだが、自伝的要素も入っている。この作品は実際に限りなく自伝に近いので、より一層ストレートに面白いのだろうと思う。
しかし、実の娘が長期の昏睡状態に陥り、病院であるいは家でそばにいる時間に気持ちを落ち着けるために書いた、というだけあって、非常につらい場面も多々ある。看病日記なのである。そこからまたふらと過去に戻って行く。
自伝はピノチェトが選挙に負けたところまで、となっている。1992年頃のことである。その後、逮捕され、2002年7月の時点で終身議員を引退し、本当に政界の表舞台から去るのだが。現在が近くなると同時に、パウラの死が近づいているのがわかる。娘の死を受け入れるイサベルの筆が痛々しい。
基本的に、エネルギッシュな女性だなぁ、と思う。外交官の娘として各国を転々とし、21歳で娘を産んでなお編集者、テレビ番組のインタビュアーとして働き、クーデターが起きると人々を助け、自ら亡命し、小説家となり、離婚し、再婚し…。暗い話も多いけど、全体的には激動の自伝なので、面白く読めてしまう。ついつい夢中になって電車を3度も乗り過ごした。普段から電車の中では本を読むことが多いが、滅多に乗り過ごしたりはしない。しかも1冊で3度というのは異常だ。つい声を出して笑いそうになったりもする。おすすめだ。