物語の作り方―ガルシア=マルケスのシナリオ教室
■著者:ガブリエル・ガルシア=マルケス著,木村榮一訳
■書誌事項:岩波書店 2002.2.18 ISBN4-00-025291-7
■内容
「お話をどう語るか」Cómo se ciento um cuento, Ollero & Ramos, Editores, S.L.,1996
「語るという幸せなマニア」La bendita monía de contar, Ollero & Ramos, Editores, S.L.,1998
■感想
映画人の育成を目指してキューバに創設されたサン・アントニオ・デ・ロス・バーニョス映画テレビ国際学園で、若い映画人と脚本作りのためのワークショップを行っていたガルシア=マルケスだったが、それをまとめた3冊が出版され、うち2冊が訳出された。
参加者各人が持ちよった物語の骨格を30分の映画にするために、様々な弱点を補い、新たな展開を見い出し、ちょっと脇道にそれたり、と非常に面白い討論が展開されている。特に前半の方が持ち寄る話がちょうどワークショップに適した程度の骨格であるため、議論がどんどん展開されて、物語が形作られていく様をつぶさに読みとることができる。
ストーリーテラーというのは努力してなれるものじゃなくて、生まれつきのものさ。でもそれだけじゃあ、十分じゃない。職業にするためには、教養や、技巧、経験といったものが求められるからね。……でも、技巧やトリック、そうしたものなら教えられるよ。
とマルケスがいう通り(帯が的確)、映画の脚本を創作した経験や映画というものに対する知識をもって彼らに語りかける。時にそれがちな議論を本筋に戻し、驚くほど激しい言葉も言えば、完全に脱線して周囲に元に戻るための手助けをしてもらったりと、とにかくよくしゃべる。
後半の方が議論としては今一つだが、「苺とチョコレート」の原作及び脚本を書いたセネル=パスが登場し、どうやって脚本を作っていったかが詳細に語られていて、興味深い話が満載である。
小説と脚本はそもそも違うもの、として定義し、ここでは「脚本」のみについて取り上げられているが、ただ、共通なのは「物語」であるという点。「物語」を語るということにとりつかれた人たちが熱に浮かされたように語り合っている。つくづく、マルケスという人はノーベル文学賞をとったアーティストというよりは、面白い話を書くストーリーテラーなのだな、という思いを強くした。