ガープの世界/ジョン・アーヴィング
The World According to Garp, 1978
筒井正明訳 新潮社 新潮文庫 1988.10.5 | |
上:560円 ISBN4-10-227301-8 | 下:600円 ISBN4-10-227302-6 |
看護婦ジェニーは重体の兵士と「欲望」抜きのセックスをして子供を作った。子供の名はT・S・ガープ。やがで成長したガープは、ふとしたきっかけで作家を志す。文章修業のため母ジェニーと赴いたウィーンで、ガープは小説の、母は自伝の執筆に励む。帰国後、ジェニーが書いた『性の容疑者』はベストセラーとなるのだが―。/結婚したガープは3編の小説を発表し幸福な毎日を送るが、妻ヘレンの浮気に端を発した自動車事故で1人の子供を喪い、ガープ夫妻も重傷を負う。女性に対する暴力をテーマに、傷ついた心と体を癒しつつ書いた小説は全米にセンセーションを巻き起こした。一躍ベストセラー作家となったガープは悲劇的結末への道を歩み出していた―。現代をコミカルに描く、アーヴィングの代表作。
「ガープの世界」はかなりの人が面白いと感じるに違いないと思う。ベストセラーだけのことはある、というべきか、ベストセラーにしては面白いというべきか。だが、一言では語れない様々な面白さが詰まっている。
作家論・小説論:本来、小説とは次がどうなるか知りたくて読むものだ。1950年代~60年代に流行していた「ニューフィクション」と呼ばれる現代小説は小説の伝統から横道にそれている、と主張する。
教養小説:ドイツ文学で言うところのBulidungs Roman、主人公が成長していく過程を描いた作品である。ガープが自己と自分の周囲の世界を見つめながら、芸術性を高めていく過程を描いている、とも言える。
政治的色合い:1970年代の女性運動の興隆を背景としている。女性運動の中でもくだらないものもある(エレン・ジェイムズ党のような)。州知事選や暗殺といった政治色の強い
暴力:暗殺、強姦、事故といった暴力が支配するアメリカ社会を描いている。ガープは必死に子供達を守ろうとする。しかしながら、実際に子供に最も大きな危害を加えたのが自分自身だったのは皮肉というか、
家庭の物語:ジェーンという母親、へレンという妻、そして子供達、というある家族の物語である。
ウィーンやレスリングなど、自分の経験してきた(これまでずっと小説に書いてきた)アイテムを入れており、ガープという作家の作品数と自分のこれまでの作品数そして内容を等しくしていることから「自伝的」と書かれてしまうこともあるのだが、これは違う。まずガープ誕生の秘話、そしてガープ一家の事故、この二つに特に突出して見られることだが、どこでこういう話を思いつくのか、というくらい独創的なエピソードが大量に放り込まれている。
なんというか、面白いのだが、とにかく変な小説である。悲惨な事件や事故が相次ぐのに、全体を貫く明るさ、ユーモアが、全然悲壮さを感じさせない。重要なキーワードは「ひきがえる」ではなくて「エネルギー」なんだろう。
1983年の映画公開直後に読んで以来だったから、もう20年近く経つ。まったく色あせない面白さを満喫した。
サンリオ 1983.3.30 各1600円 上:ISBN4-387-83016-6 下:ISBN4-387-83017-4 |
サンリオ文庫 1985.5.30 上:620円 ISBN4-387-85038-8 下:640円 ISBN4-387-85039-6 |
監督・製作:ジョージ・ロイ・ヒル<George Roy Hill>
脚本:スティーヴ・テシック<Steve Tesich>
音楽:デヴィッド・シャイア<David Shire>
出演:ロビン・ウィリアムズ<Robin Williams>/メアリー・ベス・ハート<Mary Beth Hurt>/グレン・クローズ<Glenn Close>/ジョン・リスゴー<John Lithgow>ほか