リヴァイアサン/ポール・オースター
これまでの作品とかなり違う。何が違うって、いつもの「なんか変」感がない。おそらく、1970年代~90年代という限定された時間を想定しているため、これまでと違う背景の見通しの良さ、みたいなものが原因かとも思う。どうも不思議な(妙な)話、という感じがしない。
あるいは。この作品はベンジャミン・サックスという男の物語、と言うには書き手(ピーター)自身の物語が多く含まれている上、その二人以外の登場人物も、彼・彼女らとの密接な連携がなければ成り立たなかった、という前提が書かれているくらい、重みがおかれていること、も特徴か。
能弁で筆の早いサックスと、こつこつ型のピーター、理論より行動するサックスと、じっくり腰を据えて書くピーターという、対照的な二人の作家がオースター自身のような気もする。というのも、単純にこの後映画を撮ったりするから、というだけの話なんだけど。なんとなく、ニューヨーク三部作の作家がそんなに行動的だとは意外な感じがした記憶があったため。
結局、タイトル通り「アメリカ」という天下国家に行ってしまうあたりが多分好きではなかった理由。サックスの「落ちる」事件(事故)までは、ぐいっと読めたが、この後のサックスの転落ぶりがどうも気にくわない。どこが、と言われると、今はちょっと思いつかない。
総じて、これまでのオースターの作品に比べると、好みとしては、少し落ちる。
■原題:Leviathan, 1992
■著者:ポール・オースター著,柴田元幸訳
■書誌事項:新潮社 1999.12.25 ISBN4-10-521705-4