ヤワル・フィエスタ(血の祭り)
■原題:Yawar Fiesta
■著者:ホセ・マリア・アルゲダス著,杉山晃訳
■書誌事項:現代企画室 1998.4.1 ISBN4-7738971-9(シリーズ 越境の文学・文学の越境)
■感想
ペルーの作家アルゲダス(1911〜1969)の初期作品。翻訳されている点数は少なく、あとは「深い川」くらいなもので、日本では有名な作家とは言い難いが、ラテンアメリカでは独自のポジションをもち、多くの作家に尊敬されている。
「血の祭り」とはペルーの山岳部、アンデスの町ブキオで繰り広げられるインディオたちの村単位での闘牛を中心としたお祭り。村の代表が村から連れて来た牛と闘い、最後はダイナマイトで爆破するという激しい闘牛である。これを西洋文明から見て野蛮と決めつけて政府が禁止したことから様々な対立が引き起こされる。
白人でありながら、インディオの中で育ったアルゲダスがアイデンティティの問題で苦悩していたであろうことは容易に想像がつく。そのため、本書では白人=悪人、インディオ=善人という単純な構図になっていない。役人と土着の地主というように白人の中にも対立があり、村ごとのインディオの中にも対立がある。その上混血も入るため、関係がまた複雑になっている。地元に残った混血と首都リマに出て行って啓蒙されて来た混血といった違いもある。人々が様々な対立がせめぎ合っている様子が描かれる。
そもそもここで行われいている闘牛が元々インディオたちの間にあったものではなく、スペインから入った闘牛が変化したものである。プロの闘牛士でなければ野蛮、というのもおかしな話で、西洋文明が野蛮と否定した文化がインディオの間に根付いているところが逆説的で興味深い。
インディオの話はたいていもの悲しい。本書も例外でなく、インディオの吹く角笛があまりにもの悲しく、白人たちがいらつく場面がある。インディオたちの伝承に詳しい作家らしく、そこここに彼らの歌がちりばめられていて、これももの悲しさを更に引き立たせる。しかし、牛を捕まえる場面や実際の闘牛の場面などは力強さを感じ、全体として非常に重みのある作品になっている。