めくるめく世界/レイナルド・アレナス
■原題:El Mundo Alucinante, 1969, Reinaldo Arenas
■著者:レイナルド・アレナス著,鼓直,杉山晃訳
■書誌事項:国書刊行会 1989.4.25 ISBN4-336-02466-9 (文学の冒険)
■感想
日本で翻訳されているものでは、アレナスのもっとも早い時期の作品。メキシコの実在した異端の僧セルバンド・デ・ミエルの波乱に満ちた生涯を描いたピカレスク風の伝記のような小説。メキシコの独立を目指して投獄と脱獄を繰り返し、ヨーロッパを駆けめぐり、ついにはメキシコに舞い戻る。この獄中の話なんか、実際に作者が体験してから、書いたのかと思うと、話は完全に逆転していて、追体験することになる。ひどい話は書くもんじゃないね。
しかし、これだけでこの作品「魔術的リアリズム」とか言われちゃうのは無茶苦茶な気がするな。事実、事実への仮説、事実への願望の三テクストが入り組んでいるが故に、同一の話が事実と幻想とで並列されて書かれている。その文体の極端な違いで一目瞭然に書かれているため、混乱することは少ない。
いつも思うけど、幻想文学の信望者ってのは、幻想的な記述があれば、もう幻想文学のカテゴリに入れちゃうから。しょうがないんだけど、こういうのと、例えばラブクラフトなんかが同じ範疇で語られているかと思うと、気持ち悪いと思う。