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2001年2月25日

日向で眠れ

■原題:Dormir al sol, 1973
■著者:アドルフォ・ビオイ=カサーレス著,高見英一訳
■書誌事項:集英社 1983.7.25 ISBN4-08-126009-5(ラテンアメリカの文学9)
■感想
精神病院の医師たちのおそるべき陰謀をつづったボルデナーベの手記と、手記を託されたラモスの後日談とからなる中篇。銀行をクビになったボルデナーベは時計の修理工となりまじめに仕事をしているが、優柔不断で心配性。過去に精神病院への入院歴のあるヒステリックな妻と暮らしている。ボルデナーベは「しゃべる犬」という幻想にとりつかれた妻をもてあまし、ついにはドイツ人教授の勧めに従って精神病院に入院させてしまう。だが、面会はできず、医師や看護婦の説明は要領を得ない。妻を入院させたことをすぐに後悔し、取り戻そうとするが、望みは果たせない。不安を募らせる中、妻と同じ名前の美しい目をした犬を手に入れる。この犬と一緒に暮らし、散歩をすることで気を紛らわせているうちに、妻が戻って来る。再会した妻は穏やかな性格になり、ボルデナーベは喜ぶが、次第に「これは本当に妻だろうか?」という違和感を感じ始める‥‥。

この集英社の全集には「日向で眠れ/豚の戦記」の2篇が収録されているが、「豚の戦記」の方は集英社文庫で既読なので、また再読の折りにでも。
「脱獄計画」に続くマッド・サイエンティストもの。もう傾向がわかっているので、読み進めるにあたって大きな緊張を強いられる。細部に至るまで読み落としのないように読んでいると、なかなか読み進めないようなのだが、息を詰めたように、一気に読めたりする。それは「モレルの発明」「脱獄計画」「日向で眠れ」のSF三作に共通する。おそらく、狂気におびえながらも、テーマの一つとなっている「愛」の部分で、意外な娯楽性があるためだろう。
外見が一緒なら、中身が良い方がいい、ということはない。欠点があればこそ、人はアイデンティティを保てる。