脱獄計画
■原題:Plan de evasi^on / Adolfo Bioy Casares
■著者:アドルフォ・ビオイ=カサレス著,鼓直,三好孝訳
■書誌事項:現代企画室 1993.9.20 ISBN4-7738-9309-5(ラテンアメリカ文学選集9)
■感想
先述の「モレルの発明」から5年後、1945年に発表されたビオイ=カサレスの作品。「ドクターモローの島」より怖いかも。
ある事情により母国を追われた大尉が、フランスのサルヴァシオン群島の流刑地に赴任する。流刑地は三つの島からなり、その一つに提督と少数の政治犯・刑事犯がいる。大尉が赴任した島からはボートで行ける距離なのだが、その島で提督がなにやら怪しげなことをやってるらしい。
提督は狂人なのか?囚人の反乱は果たしてあるのか?と誰を信用したらいいのか、まったくわからぬまま、大尉が追いつめられながらも戦う様が叔父にあてた手紙や日記という形で一人称で語られている。その叔父の解説や提督の指示書及び手紙などがそれに添えられ、いくつかの破片(ピース)が事件を「どの視点から見たら正解なのか?」わからない不安定な構造のまま読み手の不安感をあおっている。
絶海の孤島での意志疎通が誰とも図れない状況が異常に怖い。提督がやっていた実験が「知覚」をキーにしている点で、前作「モレルの発明」と似ている。SFっぽさはかなり抜けているが、「実験」というあたりが「ドクターモローの島」に似ている。