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戯曲

タンゴ・冬の終わりに

初出:1984
収録:「タンゴ・冬の終わりに」p155~244 講談社 1984.4.2
「清水邦夫全仕事1981~1991上」p317~374 河出書房新社 1992.11.30

タンゴ・冬の終わりに パンフレット表紙
【上演データ】
1984(昭59)年4月3日~30日
パルコ制作公演
会場:パルコ劇場
曲:バッヘルベル「カノン」+遠藤ミチロウ+戸川純
演出:蜷川幸雄
美術:朝倉攝
照明:吉井澄雄
振付:村田大
音響:高橋巌
衣裳:合田瀧秀
舞台監督:高田憲治
製作:増田通二
出演:平幹二朗(清村盛)/松本典子(清村ぎん)/石丸謙二郎(重雄)/名取裕子(名和水尾)/塩島昭彦(名和連)/野中マリ子(清村はな)/坂口義貞(上斐太)/大門伍郎(北斐太)/吉原朝島(西斐太)/平井太佳子(宮越信子)/黒木里美(宮越信子)/伊藤珠美(タマミ)/阿川藤太(トウタ)/蜷川幸雄(黒マスク)/鬼塚まゆみ(盛の姉)/小川大介/高橋功/伊藤千啓/加賀見史彦/真屋重光/中村務/榊原淳/吉田貫蔵/林田十士男/重冨俊明/大石継太/間宮栄治郎/小西和也/だんつかさ/妹尾正文/岩下雅彦/原口紀哉/藤川修介/高城史朗/星真一郎/直田積/渕野直幸/篠原翔/片岡公生/落合英雄/布矢勇/大川浩樹/二瓶新一/窪せいいち/安田英一/木谷匡勝/やまび研/郷原信親/計屋賢二/松井史朗/石橋慶一/山本美千代/宮下喜久美/久原多香子/本田浩美/門岡ひとみ/大塚真弓/内藤順子/南谷朝子/豊田恭子/近藤恭代/森恵子/御影千絵/石井ひでゆ/福島理水/川上比奈子/花上智子/下辻奈緒美/鈴木京子/白内智香子/鵜沢ひさ子/小池由香/寺川直美/菊岡薫/磯野佐和子/祝部和子/今野真紀子/林香子/宇賀美佳/阿部晃子/城間恵/宮下敬子/石原さとみ/中村恵子/坪井美香/鈴木真理/江川朋美
【あらすじ】
 日本海に面した町の古びた映画館「北国シネマ」。清村盛は有名な俳優だったが、三年前「オセロー」の舞台を最後に突然引退した。今は女優であった妻ぎんと、弟重夫の経営する映画館でひっそり暮らしている。
 そこへ俳優仲間であった名和水尾と夫の連が現れる。水尾は今や演劇界のホープともてはやされているが、かつては盛と激しい恋に燃えていた。彼女は、突然姿を消した盛に心を残したまま女優として歩み始め、過去を捨てるため連と結婚したのだった。
 ある日盛からぜひ会いたい、という手紙を受け取りやってきたのだが、そこで見たのは、すっかり狂気の世界に閉じこもった男の姿だった。
タンゴ・冬の終わりに パンフレット表紙
再演:1986年2月1日~25日
パルコ制作公演
会場:パルコ劇場
演出:蜷川幸雄
美術:朝倉攝
出演:平幹二朗/松本典子/名取裕子/塩島昭彦/他
受賞:芸術選奨(第37回・1986年度)演劇部門・文部大臣賞(松本典子)
【コメント】
 私はさほど多くの芝居を見ているわけではありませんが、この芝居がベストです。多分これだけは動かないでしょう。元々は演劇用語だったカタルシスというものに(おそらくは)近いものを感じた数少ない一作です。
 脚本もいいけど、やはり演出が大きかったんだと思います。そりゃもちろん何度も読んだ気に入った本でしたけど。
 開幕直後から凄かった。いきなり群衆シーンです。映画館の観客なんですけど、まあ発想としては特に目新しい感じはしませんでしたが、細部への目の配り方、全体のバランスが見事でした。芝居の冒頭というものは、こう、何となく身構えているじゃないですか。そういう観客の心理を圧倒するだけの力強さを持っていました。
 そして静寂…そして松本典子の語り…
 盛の幻影の中、孔雀の話の時に出てくる少年と少女が登場しますが、彼らは上からブランコに乗ったまま降りて来ます。ここの演出は難しそうでしたが、大業でそこだけがちゃんと異空間であるかのように見せてました。ここのBGがバッハ「ベルカノン」だったのか、サティだったのか、記憶が定かではありません。ま、お得意パターンではありますけど全体的にBGも良かった。
 脚本のことも少しは。劇中劇、というか芝居をやるときのセリフが印象的で覚えてしまいました。あれもやっぱり引用なんでしょうか?あんまりカッコいいセリフなんで、言葉につまると芝居のセリフをやって女を口説く俳優が、次第に哀しいものに見えて来ます。自分の言葉をもたない俳優であるからこそ、自分の言葉が虚しく感じられることもあるな、という心理がデフォルメされて伝わって来た印象があります。
 日本海・映画館・孔雀というモチーフの使い方もさることながら、今回はこの物語を思いついただけで凄かったという戯曲だと思います。日本的な風土を借りながら、俳優の世界を深く描いていたためか、蜷川さんも相当気に入ったんでしょう。ロンドンまで持って行って向こうの俳優にやらせましたくらいですから…。
 俳優を舞台にのせることの多い清水作品ですが、その中でもこの平幹二朗演じる盛は最高の人物だと思います。作られたセリフと自分の言葉が混乱し、二度と舞台に帰らないと決意しながら幻の観客の声を聞く。俳優という職業の毒をすべて飲み込んだが故に狂気におかされる男。
 意外なことに、平幹次郎は清水作品は初めてです。もちろん蜷川さんが連れて来たんでしょうけど。気を狂わせたら右に出る人はいないかも。以後しばらく出演が続くことになります。
 松本典子も、いつもながらではありますけど、カッコいい。迫力のある懐の大きい女性でした。
 たった一つ、難点を言えばやはり名取裕子でしょう。見た目はぴったりなんですが、いかんせん下手すぎました。声もすぐ出なくなってしまったようでしたし、単なるヒステリックになって、水尾という役が軽くなってしまったのが何とも惜しい。あれで再演とは思えません。
 ま、全員上手すぎてもくどくなるから、あれはあれでよかったのかも…とも思いますが。当時まだ若かったんでしょう。詳しいことは知りませんが、テレビで売れ始めて、多分あまり舞台を踏んだことはなかったんだと思います。彼女では出来なかった、というわけではないし、別に代わりがいたとも思えませんし、イメージとしては悪くなかった。ただ、あのヒステリックな棒読みセリフは勘弁して欲しかったなぁ。
 余談ですが、蜷川さんご自身も出演してらっしゃいました。この頃出るの好きだったらしい、と聞きましたが…。

再演:1991年8月8日~10月26日
NINAGAWA COMPANY
会場:8月8日~17日 Edinburgh Kingstheator/8月23日~10月26日 London Piccadilly Theater
演出:蜷川幸雄
美術:朝倉攝
照明:吉井澄雄
振付:Glenn Wright
音響:本間明
衣裳:小峰リリー
舞台監督:Jeremy Adams
英語版台本:Peter Barnes
出演:Alan Rickman(清村盛)/Suzanne Bertish(清村ぎん)/Beatie Edney(名和水尾)/Barry Stanton(名和連)他

再演:2006年11月4日~29日
Bunkamura制作公演(公式サイト
会場:Bunkamuraシアターコクーン
演出:蜷川幸雄
美術:中越司
照明:原田保
衣裳:小峰リリー
音響:井上正弘
ヘアメイク:佐藤裕子
振付:広崎うらん
ファイトコレオグラファー:國井正廣
所作指導:花柳錦之輔
舞台監督:濱田貴彦
出演:堤真一(清村盛)/秋山菜津子(妻 ぎん)/常盤貴子(名和水尾)/段田安則(名和連)/毬谷友子/高橋洋/月川悠貴/岡田正/塚本幸男/新橋耐子/沢竜二/品川徹
受賞:第6回朝日舞台芸術賞(段田安則)/第14回読売演劇大賞・男優賞(段田安則)・女優賞(秋山菜津子)・スタッフ賞(小峰リリー)
【コメント】
残念ながら、この公演を観ていません。たぶん芝居にまで頭が全く回ってなかった時期で終わってから気付いたような有様でした。

再演:2015年9月5日 (土) ~2015年9月27日 (日)
企画・製作:パルコ(公式サイト
会場:PARCO劇場
演出:行定 勲
美術:伊藤雅子
照明:佐藤啓
音響:井上正弘
衣裳:伊藤佐智子
ヘアメイク:勇見勝彦
振付:佐々木信彦
演出助手:長町多寿子
舞台監督:松下清永
出演:三上博史(清村盛)/神野三鈴(妻 ぎん)/倉科カナ(名和水尾)/ユースケ・サンタマリア(名和連)/岡田義徳(清村重夫)/梅沢昌代(清村はな)/河井青葉(宮越信子)/有福正志(上斐太)/有川マコト(北斐太)/小椋 毅(西斐太)/青山美郷(タマミ)/三浦翔哉(トウタ)
【コメント】
私にとって最高の舞台作品を29年ぶりにこの同じ劇場で観ることになるとは感慨深い。すごいなと思ったのは自分。台詞がほぼ頭の中に入ってる。若い頃、穴のあくほど読んだ戯曲、忘れてないものなんだと驚愕。
「ごきげんよう”これより死におもむくぼく、そしてぼくら仲間から最後の別れをいいます。ぼくらは今日という日まで理想に忠実でした。しかし傷ついた肉体がぼくらの数々の行動をくじき、ここで最後の時を待っています。」
なんていうのは当然として、最初のぎんの台詞からすっと出てくるのには我ながら驚いた。
全共闘色というか、現代人劇場時代へのオマージュ、芝居子屋の中に機動隊が入り込んできた時代の風景を映画館の観衆の熱狂という形で再現した30年前(29年前と31年前)の面影はない。孔雀の意味も「革命」から「失われた美しきもの」みたいな感じに変わってる。それはそれでいいと思う。もうこうやって普遍的な戯曲として扱ってもらえた方が、この作品も幸せだろう。
三上博史はこの1984年の舞台を観て、やってみたかったそうだ。苦しみのあまり現実と妄想の境がつかなくなった元俳優なんておいしいけれど、難しい。でも三上博史なら大丈夫だろうと思った。熱演でした。
清村ぎん役の神野三鈴はうまい。メチャメチャうまい。なんて台詞が聞きやすいんだろう。でも随分ふわっとした感じだなと思ったら、「演じる役を失った、自分が何者かわからなくならい、さまよっている女を演じようという」プランだったとか。それならわかるのだが、どうもきれいになってしまって、彼女の中にある闇みたいなところが見えにくかったのが残念。それと実年齢より遥かに若く見えてしまって、水尾との対比が弱い。
名和水尾役の倉科カナは登場時の神秘性があまり感じられなかったが、その後次第に熱を帯びてきた芝居に好感が持てた。もともとエキセントリックな役回りだが、盛が本当は水尾を愛していたことがわかったあたり、後悔と喜びと哀しみが入り交じって、それがとても切実な印象があって、とてもよかった。
連が一番問題で、ちょっとないがしろにされる男の役はユースケ・サンタマリアは確かに似合ってる。けど、もっと大きくて無骨な感じのする男でないと、この「食べてばかりいる」ことの哀しみが伝わりにくい。空腹を満たすことで内面の空虚さを表現しているのは同じなのだが、食べ物に固執する感じを出すにはいかんせん線が細い。「美女と野獣」あたりの台詞が書き換えられていたと思う(未確認)。
戯曲が普遍性を帯びたこと、若い(といっても蜷川さんに比べたら、ですが)演出家がこの作品に挑戦してくれること、本当にありがたい。
30年前の芝居と比較しないように書いてきたが、記憶の中で美化されただけでなく、どうしても平幹二朗・松本典子のド迫力にはかなわない。でも、おそらく誰もかなわないだろう。名取裕子より倉科カナの方が芝居としてはうまい。でも、登場したときの白いドレスで度肝を抜くシーン、盛とタンゴを踊るセクシーさにはかなわない。
この芝居は、私はぎんを観たいのだ。ぎんの力強さ、母性、情熱、哀しみといったものに私は圧倒されたい。この人は、戦っている。けれど、実は最初から負けている。それでもかつての恋敵に救いを求め、再び盛が水尾を愛し始めたことも受け止める。最後に逃げ出して一緒に狂えなかったこと、あるいは真実を告げなかったことへの後悔。そんなものが、じわっと舞台を包み込むラストシーン。
盛の流す赤い血は三上博史にとても合っていた。
 


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