Anna Seghersアンナ・ゼーガースの文学

Steinzeit, 1975

石器時代

グルーベチュ
河野富士夫, 松本ヒロ子, 貫橋宣夫, 河野正子訳 「グルーベチュ―アンナ・ゼーガース作品集」 
同学社 1996.10.1 ISBN4-8102-0096-5 2,500円 261p
ベトナム帰還兵を題材に、アメリカ大陸を逃げ回る男を描いた作品。タイトルの「石器時代」とはアメリカのカーティス・ル=メイ将軍が「ベトナムを爆撃して石器時代に戻せ」と命じた言葉からとられたものである。


ゲーリーは戦火のベトナムから父親の農場に戻るが、帰還兵に対する待遇が不満で、戦友のヘンリーから南アメリカに渡る旅券を手に入れる。ハイジャックによって大金をせしめ、アメリカからコロンビアへ渡る。スペイン語を覚え、家畜を購入してその地で牧場を経営する。経営は順調で、もうけた金とハイジャックによって手に入れた金を南米のあちらこちらの町の口座に振り分けた。慎重にしていたおかげで、安全を感じられる生活を得られ、更にエリサという女性と結婚して幸福に暮らしていた。
ところが近所の家に少し怪しげな男がいると聞いただけで、エリサに何も告げずゲーリーは出奔する。汽車、徒歩、船あらゆる手段を使って東へ向かい、サン・セバスチアンという町でゴンザレスという大農場主に出会い、監督頭を引き受ける。
そこで農場主の満足する働きをしていたのだが、ハリー・ゴールドという商人に出会い、この主人の元を去る。ときどき場所をかえる方が良いのではないかと考えたためだ。
途中でハリー・ゴールドと別れ、アマゾン河へ向かう。密林の奥へ奥へと進み現地人の元で暮らす。そこで人類学者でアメリカ人のヒルソムと出会う。この男に心許し、ベトナムに行ったことをもらしてしまう。そこでまたゲーリーは密林を出ていく。
その後製材会社の船に乗って別の町へ、次の町へと移動し、最後に厳しい山腹の農場へ向かう途中で岩から転落して死ぬ。


どこへ行っても追手から逃れられないゲーリー。彼を追っているのはハイジャック犯を追跡する警察ではなく「ベトナム体験」なのだが、逃げている間、本人はそうとは知らない。死ぬ間際になってはじめて、「無数の傷痕だらけの焼け焦げた顔」を見る。それは自分が殺したベトナム人たちの顔だった。
最後まで「戦争」を見つめ、「植民地支配」(支配される者=支配しようとする者)を追ったゼーガーズ晩年の作品である。
2001.11.17